泉幸甫建築研究所

山林地帯の限られた居住地区。開口の確保が風景を額縁にした

山林地帯の限られた居住地区。手間を惜しまず突き詰めた仕舞いを実現するため、2度に渡る垂木の組み込みで実現した開口の確保が、「風景を額縁にした」住まいである。

自然に囲まれた住まい、環境を活かす

山林地帯。広い土地を自由に使っていいと思いきや、居住地区は限られていた。

翼のような強靭さとシャープなエッジを感じさせる屋根はガルバリウム鋼板で屋根葺きされ、接合箇所を境に水平位置のみならず高さが異なる角度をなしている。

屋根に高さを出した設計により壁面積を増やし、可能な限り開口を取るようにした。自然な明かりが持たらす豊かなぬくもりと風土が住まい手に与えてくれる自然エネルギーを積極的に確保することが狙いだ。

木を使い山を守る。信頼のおける材木を

それに伴い化粧垂木と呼ばれる内側から見える天井の形状にも技工がこらされる。単なる並行に構成された屋根ではなく、角度に応じて垂木の組み込みを計算、更にはそれを実現する確かな木材の仕入れと加工が必要となる。

木材は天然乾燥を行う永田木材株式会社に協力を仰ぐ。

さらには寸分違わず構成していく必要があるため、静岡の永田木材株式会社敷地内で仮組みを実施。問題ないことを建築家・泉幸甫(いずみ・こうすけ)とともに確認をした上でいざ本番だ。

お察しの通り、木は生き物だ。呼吸をする。夏季と冬季では空中の水分含有量が異なり、木は縮んだり膨張を繰り返す。

その特徴を住まい手ともに踏まえた上で、出どころの確かな永田木材株式会社から材木を仕入れ組み込む。

本来のありし暮らし・住まいと言えるのではなかろうか。ヒトは自然に囲まれて生き、次へと歴史を紡いできた。

これは推測に過ぎないが、30代御夫婦であるにも関わらず強く平屋を希望された理由。景観・眺望ともに申し分ない土地。風土を活かし暮らしを真摯に見つめた住まい。

「安住できる家とはなにか」という問いと真剣に向き合ったように感じられる。

和室。正直に言おう、日本人が最もくつろげやしないか

ここにも緑の額縁が佇む。私ならこの部屋に来客を迎え、先にこの縁側にお座りいただき、更に10分ほどお待ちいただくだろう。

土壁は泉幸甫が信頼をおいている左官職人により築かれた。

「ぽろぽろと砂が落ちてきちゃうのよね」私の母の言葉だ。

されど、なぜ日本で古来から土壁が使われてきたか。自然の調湿効果。ほんとうに私たちが自分と家族を大切にしたいと感じたときに、心からこの土壁に魅力を感じ、落ちた土の処理さえ愛おしくなるのかもしれない。

ドアには柿渋染の和紙が用いられている。

柿渋で染めることで和紙はよりその強靭さを増し、防水、防腐、防虫作用が高まる。カーペットとして使用することもできる。日本式ヴィーガンレザーとも言えるのではないだろうか。

あとがき

安住とはなにかを思うことが何度かあった。

私は都心に中古マンション持っていたことがあったが、売却。現在は都心から離れ海のある街で借家暮らしをしている。

その折、家というものが自分にとってどういうものかをじっくり考えた。答えは見つからなかったが、初めての経験だった。このまま住むとして、生き方も変わるし考え方や体力にも今とは違う変化が訪れる。

そのときに、人生をかけて「住みぬいてやる」と思える家のイメージがある。どうもこの住まいがそれに親しく思えてならない。

文/西田 優花
設計/泉幸甫建築研究所