古都鎌倉の町並みに宿る家。自然エネルギーが住まい手を包む

鎌倉は扇ヶ谷(おうぎがやつ)。

室町時代に上杉定正がこの地に住み、「扇谷殿」と呼ばれるようになったことから、元の総称と言われている「亀ヶ谷」という名がすたれ、「扇ヶ谷」という名が一般的になったのだという。

町並みを担いながらに生活が守られた外皮

写真:鈴木研一

古都らしい雰囲気を色濃く残している邸宅が立ち並び、まさに「閑静なお屋敷街」と呼ぶにふさわしいエリアに佇むのは、新建築社の住宅特集にも取り上げられたF邸。

外観は、町並みを担う厳かさと、見方を変えれば素朴とも取れるミニマルさを兼ね備えた邸宅である。

写真:鈴木研一

しかし、その見た目から想像ができないほど、内部では最新の高気密・高断熱の、温熱環境が重視された構造が施されている。

道路と方位を振り、自然の太陽光を

写真:鈴木研一

一見、平屋に見えるその外観は、堀部 安嗣により2階建てに設計されており、古都の情景に欠かせない燻(いぶし)色の三州瓦(※1)の美しさが目を捉え、車庫はその屋根に呼応するかのような焼杉(※2)がその存在を主張する。

古来からある日本の風土が生んだ素材が活用されながら、無駄を削ぎ落とし、まるでもともとそこにあったかのような空気すら感じる。

また、人通りの多い道路と対面していない構成が、心理的にも物理的にも距離を生み、十分に守られたプライバシー環境を得ることができる。

写真:鈴木研一

家族の集まるダイニングスペースは太陽熱を活かす観点から正南を向き、日射は外付け電動ブラインドと内側のハニカムサーモスクリーンで調整が可能な仕様。

もともとあった庭は、NAYA設計室 久世 安樹により造園が施され、広縁にはられた大谷石と緑の対比が美しい。

写真:鈴木研一

季節ごとの太陽の角度から光の入り方、風の通り方などがすべて計算されていることは言うまでもなく、その大谷石が景観美のみならず蓄熱する効果も担っているということに驚きが隠せない。

大きく開口を取られた窓に対し、蓄熱材が組み込まれた袖壁と窓に沿うように敷かれた大谷石。この方角からの日射を最大限に活かすためのダイレクトゲイン(※3)が考慮されているのだ。

太陽や風といった自然エネルギーや風土の特性を活かす設計はパッシブデザインと呼ばれ、堀部 安嗣の得意とするところである。

※1三州瓦:日本産大瓦の一つで、 創嘉瓦工業株式会社の三州瓦。約1100℃以上の高温で均一に焼き締められ高い耐久性を持ち 、蒸し焼きにする燻化の工程がこの美しい色と風合いをもたらす。
※2 焼杉:株式会社共栄木材
※3 日中に蓄熱された熱量を放出し、日没後の暖房に役立たせる機能

どこにいても心地よい。最新太陽熱システムの導入

加えてこの温熱環境は、東京大学 建築学科前研究室 前 真之 准教授が開発した、太陽熱活用型ヒートポンプ暖冷房給湯システム(OMX)を採用、更には環境設備計画にも同准教授の監修が加わった。

それにより、冬は屋根集熱により落ち着いた室内光環境のままに太陽熱の恩恵を届け、夏は全館空気冷房を行う。

家全体を常に適温に保持し、温度ムラをなくす全館空調だ。

それにより温度差による健康被害を最小限に抑えることができる。

写真:鈴木研一

「実際に温熱環境の数値測定(気密測定)を行ったところ、想定数値の5分の1という好結果となったそう。
最新のテクノロジーに加え、それを最大化する設計・施工技術、そして品質管理による成果によるところで、これらのうち、どれか一つでも欠けてしまっては実現はしなかっただろう。」とデライトフルの小林 潤は語る。

アルミサッシや遮熱のためのブラインドなどのディテール、高気密・高断熱および空調設備機器がこれほどに建物の中に溶け込み、その存在を感じさせない構造。

この邸宅の設計・施工は、意匠上の収まりや造作の枠組みを超え、本質的な「人の生活を快適に穏やかに包み込む」住まいになったと言えるだろう。

これからの家づくり、住まい手に必要なもの

機械の力を利用して空気調和を制御するようなアクティブデザインだと、部屋の数だけ冷暖房設備が必要となり、たちどころに庭裏には室外機が立ち並び、更にそこに給湯器が加わることになる。

写真:鈴木研一

堀部 安嗣 曰く、

「自然エネルギーを活かすには住まい手の理解力や運営力も必要となり、制御が難しい側面もある。
大切なのは、両極端な選択肢を選ぶということより、互いの良さを引き出しながら共存できる方法を見つけて行くことだ。」

あとがき

「住まう」ということに、私たちはどれほど時間をかけて見つめ合ってきただろうか。

いつも適温であるということ、これがどれほど人体に影響を与えるか、考えたことがあっただろうか。

この邸宅について知ったとき、幼少期に当たり前だった浴室の寒さ、こたつから出るのが億劫だった冬の頃が思い起こされた。

生きているうちに家を建てるのは1度あるかないかがほとんどだろう。

その限られた機会で、私たちは自分と家族の人生を委ねるといっても言い過ぎではない。

値段やお手軽さだけで住まいづくりを決めるのを少し待って、楽しいときや嬉しいときによりエネルギーを与えてくれる。そして老いたときや病んだときは心地よく包み込んでくれる。

そんな家に私は心から憧れを抱く。

文/西田 優花
設計/堀部安嗣建築設計事務所
参考/新建築 住宅特集 2020年7月号、OMソーラー株式会社